物語の本筋はもちろん楽しいけど、それに加えて、登場人物それぞれのエピソードが良い。
その人物の個性をものっそい抜群に表してて、主人公も良いけど脇役ズもね!って感じで、正直全員に対してときめきが止まらない。
その中でも、主人公が集団就職先の「トランジスタ工場」で出会う同僚たちや、社寮の「乙女寮」舎監『愛子』さんと織りなすエピソードが好きでした。心温まるものがありつつも、当時、否応なしに集団就職という形で地元を、実家を出ざる得なかった、少年少女を取り巻く厳しい実状が垣間見えて泣かされたり。
もーおまえらみんな幸せになってくれよー(号泣)とか架空キャラに本気で思ってしまった次第。
そんな折、何気なくツイッターのTL見てたら、『愛子さん』には、モデルになった人がいるらしい。この朝ドラの為にインタビューを受けていたらしい、寮生さんもまた話を聞かれたりしてるらしい、そんでもって舎監さん本を出してるらしい。そしたら読みたくなるわけで。
『舎監』せんせい ―集団就職の少女たちと私―
著者の鈴木政子さんは、大学卒業後、某電機会社のトランジスタ工場に就職した少女たちが暮らす社員寮の舎監の仕事に就き、集団就職でやってきた少女たちと共に4年間を過ごしたのだそう。本書は、その当時のメモ書きをまとめた文章と共に当時の『集団就職』の実状、現在にまで至る寮生たちとの交流が、読みやすい文体で書かれていました。
恥ずかしい話、集団就職というと金の卵という呼び名と、三丁目の夕日のイメージしかなく。
本を読んで、当時はほとんどの人に太平洋戦争の影響が色濃く残る時代、戦争で多くの若者がなくなり、その代わりに15歳の少年少女が頑張らざるえなかった背景を知った次第。
文中の『日本の高度成長期安く使われたのが、集団就職の子供たちと、出稼ぎのお父さんたち、この人たちがいなかったら、経済大国日本はなかったと思う』のくだりに胸が痛みつつ、朝ドラを思ったりする。
著者が元寮生の方々の人生を語る中で、とある寮生が卒業した学校の先生が会社の様子を見に来たというエピソードがありました。
訪問した先生は、寮生の姿を見て安心したようだったけども、他の生徒が就職した製本屋は、物置に畳を敷いてごろ寝で、朝6時〜夜10時まで働いていたり、鋳物工場は、日々汗を流しまくりで火傷だらけ、部屋も屋根裏のような粗末な所だったと。親御さんにどう報告しようかと悩んでいたそうで、就職先が違えば置かれる状況もまた千差万別だったよう。
その中でもこの本で書かれているトランジスタ工場は比較的条件が良かったのかもしれないけれど、元寮生の方々のお話を読むに、当然ながら過酷だ。二交代制での工場勤務、寮とは言え、12畳に6人。二交代ゆえに定時制に通えない事を悔やむ寮生もいたそう。
そう言えば、この工場に就職するには当然就職試験があるようで、これは各地域の職業安定所で行われたそう。東北では5,6倍〜13倍の倍率にもなったようで、思うにその倍率を勝ち抜いてきたトランジスタ娘さんたちは勉強したい子も多かったのではなかろうかと。中には、2,3年勤めてお金をためて通信制高校、大学就学という道を歩む寮生もいたそうだが、進学したい子が全員そういう道に進めるほど簡単な事ではないのですよね。
今でも大学進学はお金がかかり、卒業と同時に借金を背負ってる学生さんも珍しくなく、つーか税金高くするならその辺もっとどうにかできませんかねと思いつつ、正直学歴が全てじゃない時代が来てる気はするけど、世が気にする「学歴」ゲットの為の勉強でなく、勉強したい子が気兼ねなく勉強できる環境というかなー。>話それまくり
この本で紹介されている元寮生さん方は、みんなカッコイイ生き方をされている。もちろん著者の舎監さんも。
時代の、世の中の、色々な制約の中、強くしなやかに生きてこられた、自分の道を着実に歩んでこられた、姿に勇気が貰えると共に、自分の祖父母や親世代の大変さを今一度考えてみたくなりました。
それと、社員寮には若い女性がいっぱい、やはりいろいろな事件が起きるわけで、舎監という仕事ってマジで大変だなって思ったり。その事件の内容が意外と今と変わらない案件だったりもして親近感が沸いたり。
とりあえず宮城に行ったら、某菓子店は行ってみたい。>本中に登場した元寮生さんの菓子屋さん
-追記-
先日書きそびれてしまったけど、寮生に向けては仕事を終えた後、学びの場が用意されたようで、年毎に課目も増えていったとの事。「社会、国語、ペン習字、料理、編み物、手芸、洋裁、和裁、体育、音楽、茶道、生け花」等の科目があり、舎監だった著者の鈴木さんは、ここで国語を教える事もお仕事のうちだったそう。勉強できるとは言え、あくまで教養講座的なもののようで、高校大学の授業とはまた違ったよう。
ただここで教えられた社会講義の要項をみるに触れる内容の広さや深さが半端ない。世界の国々、宗教、交通、貿易、主要国の基本情報、自国の事もまたしかり、また近代科学の発達と現状として原子物理学から医学薬学、政治経済の話から地元の歴史、そして道徳、礼儀作法から異性への対応まで。思うに小学校から高校くらいまでの社会科にくくられる色々な教科のごった煮かと思うのだけど、こんな感じの社会の授業なら受けたいなと…延々と社会と国語が嫌いだった私は思いました。
その後、この試みは成果を残し、本格的に学園組織にもっていく事になったそう。最終的には高校通信制過程へと変貌していったそう。勤務時間の関係で定時制に通えない子でも通信制で学べるようになった模様。